「あ、実は自分、彼女がいます…」
「え、そうなん?(笑)」
その日も予備校の指導時間がとっくに終わっていてさらに塾の終了時間も過ぎていた。
けっこう話がはずんでしまって帰るころには、
「いや~、まさかまさか、塾長と恋愛話をするとは…」
「ムフフ、そうだね…(というか恋話やっちゃいけないの?)」
「いやぁ、想像もしませんでした、こんな日が来るとは(しみじみ)」
「うん、そうだね…(俺が若い時はこんな話はあたりまえで生徒としてたよっ)(笑)」
「じゃあ、今日は帰りますね~」
「うん、お疲れさん」
ニコニコと笑って帰っていった姿。
またある日は、
「あ~、頭に(学習しようとするところが)全然入ってこん!」
「どうした、じゃあ休憩でもする?」
「いや、別の教科をします(キッパリ)」
「むむ、やるね~」
勉強が終わって夜中の零時を回って…。
「もう帰らんとね」
「塾長、今日はありがとうございました」
「は、何が?」
「これからも自分が気合が入っていない時は喝を入れてください」
「お、おう。わかった…」
毎日毎日眠たい目をこすりながら努力した日々。
誰よりもプレッシャーを感じて悩んだだろう日々。
合格しなかったら俺どうなるのと不安だっただろう。
自分が一生懸命指導した生徒にもう指導できなくなる日が来る。
本当のことを言えば、それは俺だって寂しいと思っていたよ。
寂しいけれど、それは合格すればそれまでの日々が楽しかった思い出となるのだから。
だからそうなってほしい。
きつくても粘って勉強していたことは全部自分にはわかっていたよ。
よく努力したね。
結果は必ずついてくるから。
そう信じて今までも生きてきたし、これからも。
受験の神様は彼を必ず見ているから。
(続く)